2016年12月7日水曜日

市議会リポート 薫風第46号



薫風46号から
 
不安定な時代へと向かう世界
―それでも着実に、一歩ずつ―

例年より早い冬の訪れに戸惑っている方も多いと思います。
札幌市議会は第3回定例会が1031日に閉会し、来年度予算編成に向けた作業が本格的に始まることになります。


 一方、世界の政治や経済の動きをみると、様々な動きが複雑に絡まりあって、より不透明になり不安定化が増しているようです。
注目のアメリカ大統領選挙は、大方の予想を裏切る結果となり、世界中に激震が走りました。
イギリスの離脱と難民問題に揺れるEU。政治・経済の両面で影響力を増してきた中国とロシア。混迷を深めるシリア問題とIS掃討作戦などなど。「憎しみ」と「分断」が広がる世界の中で、私たちの立ち位置もまた試されている気がします。


社会の不安感や閉塞感が増しているからこそ、安易に憲法論議にむかったり「バッシング政治」に溜飲を下げるのではなく、将来のまちづくりに向けての議論を、一歩ずつ積み重ねていきたいと思います。

安全と給食再開を最優先に
―アスベスト落下問題で緊急申し入れ―
10月に市内3ヵ所の市有施設で、ボイラーの煙突から剥落した断熱材に、発がん性のあるアスベストが含まれていることが明らかになりました。緊急点検の結果、小中学校13校の給食調理用ボイラーを含む28施設での落下を確認し、使用停止の処置を行うとともに、大気中へのアスベスト飛散の有無についての安全確認を行っています。
 一方、ボイラーが使用停止になった学校は給食調理ができなくなり、一時は約一万3千人の児童生徒に、パンと牛乳の簡易給食を提供せざるをえないなど大きな影響が出ました。また、一昨年8月の文部科学省からの調査依頼に対する、市教育委員会の対応や今後の施設管理のあり方についても、疑問が出されています。このような事態を受けて会派では、11月4日、秋元市長に対し以下の緊急申し入れを行いました。
(一)当該校における給食用ボイラーの使用再開については、代替案も含めて可及的速やかに検討し、実施すること。
(二)今後、二度と起きないよう徹底した原因究明を行い、施設管理の在り方の見直しを図ること。
(三)学校関係者、児童生徒、保護者をはじめ市民に対して、迅速かつ分かりやすい情報提供を行い、不安を払しょくすること。
板垣副市長に緊急申し入れ書を提出
 十分な情報開示をもとに
―冬季オリ・パラ招致問題―
札幌のまちづくりの基礎となった、アジア初の72年冬季オリンピックから44年。秋元市長は11月8日、日本オリンピック委員会(JOC)への開催提案書を提出しました。

今後は、JOCによる来年秋までの立候補判断と国際オリンピック委員会(IOC)への申請、更に2019年の開催都市決定まで多くの関門がありますが、ようやく招致活動への一歩が踏み出されました。
札幌市議会では2014年11月に「招致に関する決議」を行い、昨年6月には「冬季五輪招致・スポーツ振興調査特別委員会」を設置して、施設整備や財政計画にについて議論を積み重ねてきました。

「つくる」から「つながる」へ
提案書では基本姿勢として「過去―つながる―未来」「都市―つながる―自然」「オリンピック―つながる―パラリンピック」「スポーツ―つながる―文化・観光・産業・教育」「札幌―つながる―世界」を謳っています。
これから一斉に更新時期を迎える、老朽化した競技施設や都市インフラ。人口減少と超高齢社会に向かう中にあって、将来のまちづくりの課題と重ね合わせるヒントがここに表わされているのではないでしょうか。

不可欠な市民の支持
東京五輪を巡っては、開催総経費が当初計画の4倍となる3兆円に膨らむとされ、「コンパクト五輪」「震災復興五輪」の掛け声はすっかりかすんでいます。開催経費への不安が広がる中で、継続的に情報開示を行い市民の支持を広げていくことが求められます。

競技施設は、72年と比べて種目数や観客席数が大幅に増え、改修、建替え、仮設など様々な工夫が必要になります。新設が必要な選手村とメディアセンターは、立地場所や開催後の利用計画についてさらに慎重な検討をしていかなければなりません。

招致実現までの道のりは、まだまだ長く厳しい条件を克服しなければなりませんが、次世代へとつなぐ有形無形の財産を、市民が共に創り上げる―創造都市さっぽろを世界にアピールする絶好の機会としたいと思います。

子どもの育ちはいま
―全国学力・学習状況調査から―

今年の「全国一斉学力テスト」の結果が、10月に教育委員会から公表されました。

1964年、「地域や学校の序列化と過度の競争を生む」として中止され、2007年に復活して10年が経過します。毎年、公表を求める圧力が強まり、学校別に公表する自治体では、成績の悪い子を休ませるなんていう事件もありました。


学力テストの目的は、子どもたちの習熟度を把握し、教育施策や学校での指導に生かすことであり、義務教育の子供たちを点数のみによって序列化することではないはずです。目的が横道にそれて、点数や順位を上げることに親や子どもたちの意識を向かわせているとしたら、即刻中止して根本的な見直しを図るべきではないでしょうか。


「みんなちがって、みんないい」「ナンバーワンよりオンリーワン」―いつまでも教育の原点を忘れずに、大切にしたいものです。

社会とのかかわりを見る

新聞などではほとんど報道されませんが、学力テストでは、国語、算数・数学の教科に関する調査と同時に、生活習慣や学習環境について約40項目にわたる調査を行っています。 

私は、点数よりもこちらの方に興味が惹かれますので、何点かピックアップしてみます。なお、カッコ内は肯定的な回答の割合です。

◎自分には、よいところがあると思いますか

 小学生(74・6%)中学生(69・7%)

◎将来の夢や目標を持っていますか

 小学生(83・9%)中学生(68・6%)

◎学校に行くのは楽しいと思いますか

 小学生(85・5%)中学生(77・7%)

◎今住んでいる地域の行事に参加していますか

 小学生(57・5%)中学生(29・9%)

また、学習塾に通っている割合は、小学生46・5%、中学生61・3%。1日に2時間以上ゲーム(テレビやパソコン、スマホ)をしている小学生は35・7%、中学生は37・6%。通話やメールをしている小学生は13・2%、中学生は34・4%となっています。
皆さんはどのように受け止められますか?

見えにくい貧困
日本ではいま、子供の6人に一人が貧困のもとで暮らしています。先進国でも最悪の水準といわれ、貧困の連鎖や格差の広がりなども指摘されています。

一方、相変わらず生活保護バッシングが続き、ドキュメンタリー番組に出演した子供へのバッシングに自民党の政治家が同調するなど、本質がゆがめられて伝えられる例も多くみられます。
見えにくい構造を明らかにし、相変わらず親に責任を押し付けるあり方を変えていく努力が必要です。

 子ども未来局では、来年度策定予定の「(仮称)子ども貧困対策」や、今後の子ども施策を検討する基礎資料とするため、1万3千人を対象とする「子ども・若者生活実態調査」を行っています。
貧困を生み出す社会的な不平等や不利をどのように克服していくのか?就労、教育、医療、保育など、まさに政策を総動員した取り組みが求められます。

 
「絵本図書館オープニング式典で。秋元市長と同僚議員」


健全経営と市民サ-ビスの向上を
―路面電車の料金値上げへ、24年ぶり―

72
年の冬季オリンピック開催を機に、地下鉄南北線の開通とモータリゼーションの荒波によるバス転換によって、辛うじて残った路面電車。
その後も廃止を求める声に悩まされながら、全国的な「路面電車復権」の追い風を受けて、05年にようやく存続が決定し、12年には「路面電車活用計画」が策定されて実行に移されました。


ループ化と新型車両の導入

札幌市の車両は、30両のうち24両が運転開始後50年を経過し、老朽化が進んでいます。このため、段差を小さくするバリアフリー対応と定員増によるサービス向上を目指した、新型低床車両「ポラリス」が2両導入され、停留所の改良事業も始まりました。


「すすきの」と「南1西4」とを結ぶループ化事業は、都心部とのアクセス性と回遊性の向上、歩道側を通行するサイドリザベーション方式による沿道のにぎわいとの一体化を図るものとされています。

雪対策や荷捌(さば)き場の確保、車との接触事故や交差点の安全対策など、多くの課題を克服し、順調に乗客数を伸ばしています。


経営の安定と今後の取り組み

しかし、現行運賃(大人170円)のままでは、毎年1億円から2億円の収支不足が続くことが予想されます。今後、内部効率化や経営形態の見直しを図っていくことはもちろんですが、車両のみならず修理工場などの施設の老朽化も限界に達していること、更にサービスの向上が求められていることを踏まえると、料金改定はやむなしと考えます。


秋元市長は今年4月に市営企業調査審議会に諮問。
審議会では計4回の議論を経て「経営基盤を安定させるために、運賃を引き上げる」との答申を出しました。

これを受けて交通局は、料金を30円引き上げて200円とする条例改正案を提出し、議会では聴聞会を開催したほか、決算特別委員会での議論を経て認められることとなりました。


今後は、地域のまちづくり団体とも連携を図りながら、「高齢社会への対応」や「都市の活性化」など、新たなテーマに挑戦していくことになります。

地震防災と避難対策
―熊本県益城(ましき)町を訪ねて―

8月下旬、今年4月に2度にわたり震度7の激しい直下型地震に襲われた、熊本県益城町を訪ねました。熊本市内から阿蘇山の方面に車で約20分ほどに位置する益城町は、のど
かな田園風景と住宅が混在する人口3万人ほどのベッドタウンです。

熊本市内では目立たなかった倒壊住宅も、益城町に入ると幹線道路の両側に、一階部分がつぶれ瓦が散乱している家、かろうじて形は残っていても今にも倒れそうな建物、一見無傷に見えても倒壊に危険を示す張り紙がある建物などが次々と目に入ります。すさまじい地震の破壊力と被害の大きさに声を失いながら、町役場に到着しました。

「益城町役場屋上で稲田議長の説明を受ける」
 
想定外だった直下型地震
大きな損傷を受け、役場機能全体が公民館に移されている庁舎の2階で、「議員全員が毎日、地域の様々な課題や情報を集める貴重な役割を果たしている」と言いつつ、稲田忠則議長自ら説明役をしていただきました。
「台風や梅雨時期の水害に対しての備えはしてきたが、防災計画の中で地震は全く想定していなかった。むしろ台風に備えて屋根を重くしたことで、地震の被害が大きくなった。」

「倒壊住宅の解体、撤去がなかなか進まずに苦労している。そもそも業者が少ないこと。分別や搬送に時間がかかること。処分場の確保の問題など課題は多い。」

「住宅の再建は、何とか2年で成し遂げたい。住み慣れた家を失い避難所や借り上げ住宅で暮らすうちに、希望を失ってしまう高齢者が多くいるからだ。」 

「ようやく避難所を閉鎖するめどが立ち、一時の混乱状態はおさまりひと段落の感はあります。しかし、復旧・復興にはまだまだ長い時間がかかります。一日も休む暇はありません。」

今年は北海道に続けて三つの台風が上陸し、とりわけ道東地方に甚大な被害をもたらしました。札幌市は、神戸、東日本の二つの大震災の経験に学び、地震への災害対策の充実を図ってきましたが、風水害への対策にはまだまだ弱い点があります。

貴重な時間を割いて説明いただいた稲田議長のお話を、今後もしっかりと胸に刻んでいきたいと思います。


近くて遠い国を訪ねて

4月に中日友好協会の招きで南京・洛陽を、6月には友好都市交流事業でノボシビルスク市(ロシア)を訪問する機会を得ました。
中国は何度も訪れていますが、ロシアは初めて。どちらも日本のお隣の国ですが、情報は少なく、良い印象を持つ人も少ない国といえます。しかし、トラベルはトラブルと言った人がいますが、旅はいつも新しい発見をもたらしてくれます。


「中山(ちゅうざん)陵の孫文像と一緒に」


昨年の瀋陽、3年前の北京と訪問時期が冬ということもあり、PM2.5の“熱烈歓迎”を受けましたが、今回は夏を思わせる陽気。

国父として尊敬を集める孫文の陵墓である南京・中山陵は、幅20メートル392段の石段を埋めつくほどの観光客。世界遺産の洛陽・竜門石窟もまた、一周2時間はかかる見学路に人があふれていました。日本で報道されている風景とは全く異なる、人々の姿があります。

しかし、数年前まではどこに行っても見かけた日本人観光客の姿がありません。
札幌では、一年中を通して見かけるようになった中国人観光客。大きなギャップに、驚いてばかりはいられません。

日本語では「新しいシベリアの町」を意味するノボシビルスク市。19世紀末に、シベリア鉄道建設の拠点として街がつくられ、学術研究都市として発展を続けています。

清潔で緑の多い街並み。フレンドリーな人々(ただし中国人と間違われ、度々「ニーハオ」と声をかけられる)
結婚式で夜中までにぎわうホテルのフロアー。日本車で混雑する道路。何よりも、「シベリア北海道文化センター」の活動を中心に、日本語や日本の文化を学ぶ若い人たちが育ち、交流の歩みが重ねられています。まさに「目からウロコ」を実感した次第です。

私たちは中国、ロシアともに、近づきがたい国という先入観を持ってしまいがちです。
しかし、思い切って一歩足を踏み入れると大きく広がる世界が、“常識”を変え、新たな挑戦を誘(いざな)う原動力につながるのではないでしょうか。