2010年2月16日火曜日

薫風第32号より

大島かおるの市議会リポート 「薫風」

「成長神話」から「持続可能」な時代へ
政権交代から未来を展望する

戦後日本の政治史上初めて、野党第一党が過半数を得て政権を担う日となった、8月30日から5カ月が過ぎました。
変革=チェンジを期待した国民の声に応えきれているのか? との問いに、「Yes!!」と答えられないもどかしさはあっても、永田町の風景が変わったことは確かです。
鳩山首相は指導力不足との指摘もありますが、全員野球が鳩山内閣のチームカラー。
官僚が敷いたレールを追認する閣議から、大臣同士が議論を尽くし、結果に責任を持つ「政治主導」へ。 前年度比で9兆円減少という想定外の税収見通しの中、未来につなぐ予算の実現・実行へ向けて、政権政党としての責任を果たしていかなければなりません。
今年も上田市政を支えて全力で歩んでいきます。よろしくお願いします。

「足元」を見つめなおす
・・・・・・・・・・・・・ 市民の手で未来の社会のイメージを
経済の停滞や将来の社会保障への不安。
私たちは、「成長神話」を前提として組み立てられてきた社会の仕組みそのものを根本から問い直し、そして創り変える時代に直面しています。

20年ほど前から、政府―行政―業界が一体となって政治・経済を支配した「護送船団方式」と呼ばれる仕組みの機能不全が指摘されてきました。
そして、この古い体質を引きずった自民党を「ぶっこわす」として登場した小泉政権の構造改革路は、新たな社会への道筋を示すことなく、基盤となる社会保障システムを「ぶっこわして」退場しました。
世界では経済のグローバル化が進み、国内では貧困が広がり格差が拡大する―私たち自身がどのような社会を選択するのかを、今ほど厳しく問われている時代はないといえます。
 
市民に直接サービスを提供する自治体の財政が疲弊しては、安心の社会を創ることはできません。
低賃金の非正規労働者が急増すれば、年金や健康保険制度が成り立たちません。
男性の長時間労働の規制と保育サービスの充実がなければ、女性の社会参加も少子化対策も絵に描いた餅になるでしょう。
 
朝日新聞の世論調査では、「どのような国づくりを望むか」という問いに対し、35%が「福祉国家」と答え、「平和・文化国家」32%、「経済大国」はわずか10 %しかありません。一方、日本の租税負担率は23%と、スウェーデンの49%はもとより、イギリスの38%、アメリカの26%と比べても少なく、社会的支出の対GDP比は、スウェーデン31%、イギリス20%、日本18 %、アメリカ16 %となっています。
 
国民の願いと政治の大きなギャップの原因は、旧来の政治手法の機能不全と政治不信にありました。
「あきらめ」や「お上まかせ」から脱し、支出のあり方や負担の構造について私たち自身が積極的に論議に参加する時代を迎えています。

「地域主権」と自治
・・・・・・・・・・・・・・・ 問われる「国のかたち」と「地域力」

 
民主党はマニュフェストで「明治維新以来続いた中央集権体制を抜本的に改め、『地域主権国家』へと転換する」としました。
まさに「箸の上げ下げ」まで細かく自治体を支配してきた霞が関の権限を解体して地方政府を確立していく、新しい「国のかたち」を創りあげようとする試みでもあります。
「地域主権」には地域を元気にするという目的もあります。「三位一体改革」も「構造改革」も、結局のところ地方切り捨て政策でした。

地方に自由度が全くない画一的な経済雇用対策は、一時しのぎで、ほとんど役に立たないものでした。民主党が掲げる「みどりの分権改革」は、地域の中で資源やサービスをまかなえる仕組みを自らの力で考え出すことでもあります。そのために、国が総力を挙げて支援することが求められます。
地産地消を柱にして、加工や流通も地域で連携して新たな雇用に結びつける6次産業の発想や、太陽光や風力、小水力などの自然エネルギーの利用拡大を、地域循環型の経済に結びつけるなど、新たな可能性への挑戦も始まっています。
札幌市は上田市長を先頭にして市民自治を根づかせ、市民との共同によって「新たな公共」を創り、自分たちの暮らしに必要な政策やルールを「地域力」によって決める取り組みを進めてきました。さらに情報公開と市民参加を進め、公共サービスの確保、行政改革や自治機能の強化に務めていかなければなりません。

コンクリートから人へ
・・・・・・・・・・・・・ 新たな「公共」の担い手を

「ガソリン税の暫定税率廃止は、地方自治体の道路財源を直撃する」―このことに象徴されるように、自治体財政も地方経済も、土建国家ニッポンの構造に絡め取られてきました。

高速道路やダムの見直しに対しても、地元自治体は猛烈な反発を示しています。  
しかし、自治体が今、本当に必要としているのは、市民生活とつながる公共財(生活道路、公園、公共施設、公営住宅など)の、適切な管理、補修、更新のための費用だといえます。
また、地方の生活や一次産業を支えるための基盤整備や流通網の確保には、重点化や戦略的な取り組みが求められているのではないでしょうか。
札幌市の土木費も、最盛期から比べると半減していますが、補修が追いつかない、除排雪に必要な人員や機材が確保できないなどのひずみが生じています。
 
歴代の自民党政権は、公共事業の分配をその拠り所としてきました。
小泉「構造改革」においても、国土交通省や農林水産省が行う国の直轄事業は聖域とされ、自治体には負担金としてツケ回しをする仕組みが、あたりまえのように続いてきました。
「鉄とコンクリート」が成長のシンボルである時代に、いつまでも決別できなかった結果が、800兆円もの借金だといえるでしょう。
 
地方が疲弊し、自治体財政が破綻の危機の中にあっても揺らぐことのなかった政・官・業のトライアングルが、ようやく終わりを迎えようとしています。

「事業仕分け」フィーバー
・・・・・・・・・ 求められる「選択と集中」への基本戦略


昨年11 月、予算編成を前に行われた「事業仕分け」は、繰り返しマスコミで報道されたこともあって、大きな関心を集めました。
これまで密室の中で行われていた予算査定を、公開で、市民参加のもとで行うことが新鮮であり、衝撃的でもあったのだと思います。
しかし、「事業仕分け」が万能の神かというと、そう簡単な話ではありません。

仕分け対象の事業を選ぶ基準をどうするか。仕分け人の選定方法は公平か。わずか1時間の議論で結論を出すのはあまりに拙速ではないか。
費用対効果や効率性という基準のみで事業の有効性を計れるのか。などなど、多くの課題が指摘されています。
 
そもそも、政府や自治体が行う事業や施策には、費用対効果という基準がなじまないものも多く含まれています。
科学技術の研究開発やスポーツ・文化の公的支援は、その代表といえるでしょう。
政権の「大きな物語」ともいうべき基本戦略である、政策の方向性と優先順位を明確にすることや、制度そのものの不備や問題点に踏み込んだ議論が不可欠です。
 
札幌市は、05年に行政評価制度を導入し、約1600に及ぶ事業について仕分けを行い、12 名の第三者委員による外部評価も積み重ねてきました。
議会においても、とりわけ予算・決算特別委員会では、一つ一つの事業のあり方や成果、課題についての論議が行われています。
 
「事業仕分け」は、政・官・業の癒着構造の中、観客席で指をくわえて見ているしかなかった国家予算や政策決定過程に、市民の口出しが可能なことを明らかにした政治イベントでした。

国民的な合意を形成する武器として、どう進化させていくのかが問われます。

「ひとこと」
政治とカネ
小沢幹事長の政治資金報告書問題が、鳩山政権の屋台骨を揺るがしています。あぶり出しのような検察の捜査手法、マスコミ報道(とりわけあいまいな取材源)のあり方には、確かに国策捜査の雰囲気がただよっています。しかし、億単位の巨額な政治資金に、なぜ、テレビドラマの闇の世界のように紙袋で持ち運びされたり、不動産に化けたり、記載を忘れたりするようなことが起きるのか、市民には理解し難いことだといえるでしょう。
検察の狙いは、ダム工事の入札に絡んだ談合への関与だといわれています。
贈収賄罪に問われるようなことはないと信じますが、小沢氏個人の資産なのか、政治資金管理団体「陸山会」の資金なのか、どのような性格のお金なのか明らかにすべきです。
金権体質は批判されなければなりませんし、お金の問題が政治不信を引き起こすようなことがあってはなりません。

日米安保50年
アメリカ合衆国と旧ソビエト連邦の対立による冷戦構造が崩壊して20年が過ぎました。
しかし、日本の安全保障戦略は冷戦思考から抜け出せないまま、アメリカの軍事戦略を無条件に受け入れ、防衛予算も拡大してきました。 今や日本は、世界最大の海外拠点基地となっています。  
普天間基地の辺野古移転問題に揺れる沖縄の米軍基地問題は、日米同盟を盾にして解決を先送りしてきた歴代政権のツケ回し体質が象徴的に表われているといえます。
新たな基地の固定化につながる現計画に、沖縄県民が強く反対するのは当然であり、なぜ一旦合意したグァムへの全面移転が不可能なのかの理由も明らかではありません。
政権交代は日米安保を見直すチャンスでもあります。旧政権やアメリカ政府高官の言動に惑わされることなく、堂々と議論を進めるべきではないでしょうか。


新春対談
官民連携で新しい働き方を発信
― 元気ジョブの果たす役割 ―
 
札幌市は、清掃や印刷などの業務を民間企業から受注し、小規模作業所などへ仕事を振り分ける役割を担うアウトソーシングセンター「元気ジョブ」を、昨年12 月に開設しました。
この事業は国の「ふるさと雇用再生特別対策推進事業」を活用したもので、北海道社会福祉協議会が実施する「マッチング事業(共同受注システム)」と連携して取り組まれます。
事業を受託したNPO札幌障害者活動支援センターライフの石澤所長を訪ね、元気ジョブの活動や今後の障害者の就労支援などについて伺いました。

障害者雇用の可能性

大嶋 元気ジョブが本格稼働しました。これまでにない新しい取り組みとして期待されます。

石澤 障害者1人を含む4人の営業員を雇用して活動をしています。市内には清掃、印刷、データ入力、袋詰め、ポスティング、草取りなどの業務を手がける小規模作業所が約200カ所前後ありますが、民間企業にはあまり知られていません。
施設の側も1カ所ではこなせる仕事に限りがありますが、共同受注すれば企業側のニーズにも応えられます。

大嶋 元気ジョブは業務を各施設に振り分けるだけではなく、事業規模が小さい福祉施設に安定した仕事を確保する。
また、障害者の収入の安定、雇用の促進という意味でも期待が持たれています。
また、それを当事者がやろうとすることに大きな意義があります。

石澤 2011年で補助金がなくなるので、それまでに活動の基盤を確立させなければなりません。
正直、これまで日本の障害者支援策は、補助金を渡して活動を継続させるというもので、仕事をきちんとこなして利益を得るという視点が抜け落ちている気がします。
単に役所に仕事をもらって障害者が利益を得るということではなくて、働きたくても働けない人たちの受け皿になるような場所にしたいと思っています。

大嶋 今の話はまさしく「協働」というものをどうしていくのかということにつながる話です。
これは石澤さんが参加している「雇用創出・地域戦略会議」にも大きな関係がありそうですね。

地域に根ざした活動を土台に
石澤
 雇用創出戦略会議は官民が連携して、行政の仕事の外部委託などを通じて、派遣切りされた若者や障害者らの雇用を生み出していく考えのもと、地域ぐるみで雇用問題に取り組もうというものです。
これまでの政府の雇用対策は短期雇用モデルばかりです。それとITなどのパソコン講習などが大半を占めています。
それでは絶対に就労に結びつきません。講習ではなく、まずは働くということに視点をうつすべきです。
働く場を創りだすことが何よりも大切であり、それが社会参加であり、協働ということにつながっていくのです。

大嶋 失業している人が新たな技術を勉強して違う道に行くのは相当な困難がありますが、失業している人の能力を活かす場所を提供するようなコーディネーター的なものがあれば、例えば手に職を持っているような人たちは即戦力ということになりますね。

石澤 これは簡単にいかない話かもしれません。しかし、発想の転換次第です。これまでのライフスタイルを変える必要があるかもしれません。 つまり年収は多くなくても豊かな生活だと感じられるかどうかだと思います。

大嶋 民主党はコンクリートから人を大事にするというスローガンをどう実践していくのかということが今、問われています。
官民連携のもとで取り組む雇用創出戦略会議は、人を大事にする、地域に根ざすということはどういうことなのかを再認識させてくれるものになっていくような気がします。
最後に上田市政への期待、提言をお願いします。

石澤 市長は、私たちの提案にすぐに賛同してくれました。そして、雇用問題にとどまらず他都市と連携して地域全体が元気にならなければいけない、行政だけでは雇用問題は解決できないとの持論を語ってくれました。行政主導から転換して私たちに任せてくれた意義は大きいと思います。
上田市長とともに是非、札幌から新しい雇用の形態、働き方を全国に発信していきたいと思います。